トヨタがこければ日本がこける

ギャラップ調査でわかった、米国民のトヨタへの信頼度

ギャラップが3月2日公表した世論調査によると、米国民の31%がトヨタ車や同社の高級車ブランド「レクサス」が安全ではないと考え、55%の人がリコール問題に関してトヨタの対応が迅速ではなかったと回答した。
 ただトヨタ車の所有者では、安全ではないと回答した割合は14%にとどまり、74%の所有者はトヨタ車に対して信頼を失っていないと回答。またトヨタ車を購入する見込みがある人々の間でも、トヨタ車の購入を今後検討しないと回答した割合は17%にとどまる一方、53%の人は購入を検討すると回答し、全般的にトヨタへの支持が失われていない可能性が示された。

上院公聴会

 そういった中、米上院商業科学運輸委員会の公聴会が3月2日に開かれた。公聴会には稲葉・北米トヨタ社長、佐々木真一・トヨタ副社長(品質保証担当)、内山田竹志・トヨタ副社長(技術担当)の3人の幹部が出席した。
 ロックフェラー委員長は、北米トヨタのトップが2006年にトヨタ車の品質低下を警告した内部文書を公開し、「トヨタがすでに公表した以外の新たな情報がここにある」と発言した。問題の文書はジム・プレス北米トヨタ社長(当時)のプレゼンテーション資料。米道路交通安全局(NHTSA)に関わる問題の深刻化についても警告している、という。

電子制御スロットル

 反トヨタ議員が問題にしているのは、「意図しない急加速」。安全問題の専門家の一部は、02年以降のトヨタ車の意図しない加速のうち、少なくとも一部は電子制御スロットルの不具合が原因だった可能性があるとしている。もし、仮に、電子制御スロットルの不具合が明らかになった場合には、豊田章男社長始め、トヨタ幹部が揃って不具合を否定しているため、トヨタへの不信が拡大するだろうし、集団訴訟でも陪審員にかなり悪いイメージを与えることになる。

トヨタへの風向きの変化も

 2日の上院公聴会では、ロックフェラー委員長は、トヨタだけでなく、自動車業界全体の安全性に対応するための法案作りに取り組む方針を示した、という。また、ラフード米運輸長官は公聴会で、アクセルとブレーキが同時に踏まれた場合にブレーキが優先される「ブレーキ・オーバーライド・システム」を、あらゆる自動車に搭載させる可能性について検討している、と述べた。現在米国市場で販売された自動車の中でこのシステムを搭載しているのは20%ほどの車に過ぎない。こうした発言は、トヨタだけを狙い撃ちにするのではなく、自動車業界全体の問題に、焦点が移っていく可能性も示しているとは言えまいか。
 また、ロックフェラー委員長は「NHTSAのトヨタに対する調査が遅すぎた」と政府当局への批判も述べている。これに対して、ストリックランド新NHTSA局長は、NHTSAの対応は「まったく適切だった」と主張し、トヨタが米市場で大きなシェアを持っているために、苦情件数も多くなったと指摘。「トヨタの突然加速する問題の比率は他メーカーと同程度」と述べた。

トヨタ公聴会での対応ミス

 北米トヨタの稲葉社長は事前公表した書面証言で、品質向上の取り組みをチェックする外部専門家の組織を設置し、クリントン米政権で運輸長官を務めたロドニー・スレーター氏を起用することを明らかにした。しかし、これは逆効果だった可能性がある。ラフード運輸長官は、公聴会で、監督当局OBの自動車業界への天下りを規制する法律を厳格化する必要性を主張したからだ。

トヨタ問題は日本経済のカギを握る

 トヨタのリコール問題は、一企業の問題にとどまらず、日本経済全体の浮き沈みにかかっている。東海地方は、リーマンショック後、景気の落ち込みは他の地方を圧していた。自動車製造業は、その周辺産業に部品製造、機械製造業、自動車販売業、リース業を抱えている。自動車製造業の好不調は、地域経済だけでなく、日本経済全体に悪影響を及ぼさざるを得ない。キャノンはもうかっているが、トヨタほど労働力をもたらさない。雇用環境への影響度は天と地ほどの差がある。日本の輸出工業製品の中心は、工業素材(化学素材、DRAM等)、自動車、一般機械である。日本で製造される工作機械の3分の2は自動車産業向け。日本は自動車で食っている。トヨタ批判の火が弱まるのを願ってやまない。