貸金業規制、緩和方向に転換か

冒頭で訂正します

 本稿は1日付新聞報道を元に書いたものですが、その後亀井金融相、福島消費者庁担当相が、貸金業法は予定通り施行するとの見解を発表しています。ただ亀井金融相と大塚副大臣とで、見解が違っているようです。
 亀井金融相は4日、改正貸金業法について、「法律そのものを基本的に変えることにはならない。施行の延期も視野に入れていない」、「利息や総量規制をいじる考え方はない」、「利用者がヤミ金融に走ることがないよう、他の金融機関が努力していくことが必要」と言っているが、大塚金融副大臣は3日、改正貸金業法について、「3年前には想定していなかった厳しい経済情勢は、やはり無視できない。予定通りでいいかどうか議論する」、「実態把握と論点整理はするが、結論は決まっていない」と言っている。大臣見解の方を政府の公式見解とすべきだろうが、閣内不一致どころ省内不一致だ。大塚副大臣はこれまでの議論の積み上げをよく分かって発言しているのだろうか。アイフル株は1日の報道を受けて、前営業日終値135円から一時期170円近くまで上がり、その後亀井担当相の見解発表を受けて急落した。虚偽の風説の流布に近い行為ではないか。(09.11.8)

政府規制緩和を検討

 政府は金融庁消費者庁法務省など関係各庁の政務三役(大臣、副大臣政務官で構成)で構成する検討会議を11月中にも設置。無担保融資の貸付限度額を収入の3分の1以下に抑える総量規制の妥当性、ルールの変更の影響を小さくする「激変緩和措置」の導入の是非を議論するという。

同法の再改正も検討

 09.11.1日付日経記事によれば、政府関係者は「検討結果によっては改正貸金業法の規制強化策を凍結することも排除しない。」と話しており、同法の再改正も視野に入っているという。

なぜこの時期になって、このような方針を打ち出すのか

 改正法は、09年末までに完全施行するよう努めることになっていたが、法の定める最終期限10年6月にずれ込むことになり、ここでさらに後退することになる。
 貸金業業界は存亡をかけて、熱心なロビー活動を行ってきた。もし総量規制が実施されるとなると、もう借りられなくなった顧客が、弁護士なり司法書士のところに駆け込み、過払金返還請求が増大することが心配されたからだ。業界は、「借入ができなくなった債務難民が発生する」とか、「借りられなくなった人が闇金から借りるようになる」とか、規制のマイナス効果を必死になって訴えていた。
 消費者金融だけでなく、銀行も動き出した。三菱東京UFJアコム三井住友銀行はプロミス、三洋信販みずほ銀行オリエントコーポレーション新生銀行は新生フィナンシャル(旧レイク)、アプラスを子会社、孫会社として抱えている。もしこうした消費者金融が倒産でもしようものなら、財務上大きなマイナスになる。
 さらには政府の都合もある。貸金業法貸金業規制強化とセーフティネットをセットにしていた。規制強化で借りるところが無くなった人たちには、政府が救済しましょうということなのだが、この準備が思うように進んでいない。もし借りる先がなくて、闇金が跋扈するようになれば、政府が責任を追及されかねない。
 こうしたそれぞれの思惑が絡んで、こうした見直しが行われるのだろうが、国民不在との批判は免れないだろう。

激変緩和とは

 激変緩和措置とは、規制を一気に進めず、段階的に進めましょうということだ。例えば総量規制でいえば、最初の何年間は貸付限度額を収入の3分の1ではなく、2分の1にするとか。例えば上限金利規制でいえば、最初の何年間は29.2%(日歩8銭)を25.55%(日歩7銭)にするとかである。

規制強化で本当に闇金が跋扈するのか

 規制強化をすると、借りられなくなった人間が借りる先を求めて、違法金利をとる闇金が激増するという危惧を持つ人がいる。貸金業界もこの点を強調するのだが、果たしてそうだろうかという疑問がある。最近は闇金対策法の成果が出て、闇金は減少傾向にある。昔の闇金は、払わないと取り立てに来たが、今そんなことをしたら警察にすぐ逮捕されるので、電話での嫌がらせしかしてこない。昔は警察も、民事不介入だとか適当なことを言って、被害者がいても取り合わなかったりしたが、今そんなことをしたら許されない。内部監察の対象となる。
 また闇金は足がつかないように、第三者名義の預金口座を使って、借主から振込を受けるが、最近銀行も不審な口座があるとすぐに凍結してしまう(こうした規制が甘いのがゆうちょ銀行で、現在闇金のかなり多くがゆうちょ銀行を愛用している)。このため、リスクが大きく、大きな金は動かせなくなっている。また口座がすぐ閉鎖されてしまうので、銀行口座の闇取引の価格が上昇している。このため闇金稼業は、ハイリスクハイリターンな仕事ではなく、ハイリスクローリターンな仕事になってしまっている。このため、闇金業者が振り込め詐欺に転向し、振込め詐欺が増加しているという見方もあるほどだ。
 とすると要はセーフティネットの早期の確立があれば、規制緩和は必要ないことになる。政府の努力不足と言ってよい。