アイフル ADR手続申請

アイフルがADR手続に着手

アイフルが9月18日、「産業活力再生特別措置法」による事業再生ADR手続(特定認証紛争解決手続)を申請すると発表した。経産省認可法人たる事業再生実務家協会より仮受理された、という。
 アイフル子会社のライフ相手の訴訟で、神奈川簡裁に行く途中に見た新聞で、この記事を読み、「またライフの担当者からこの話を聞かされるんだろうな」と思いつつ、裁判所に向かう。思った通り、ライフの従業員が「今日の新聞でもあったようにうちもこういった状態なので」と盛んに言っていた。
※9月24日付のアイフル発表の業績予測をそのまま引用する。今期末の純損失が3110億円と見込まれるとのことだ。
「個別業績予想の修正同様、当第2四半期連結累計期間において、連結での利息返還損失引当金として1,900億円、貸倒引当金として920億円(うち利息返還にかかわる元金損失530億円)の繰入実施などにより、営業費用が当初計画に対し約2,780億円増加する見込みとなっております。また、消費者金融子会社4社の譲渡に係る子会社貸付金譲渡損失のほか、事業構造改革関連費用など、約220億円を特別損失として計上する予定です。」
「これらの結果、当第2四半連結期累計期間の業績は2,720億円の営業損失、2,720億円の経常損失、2,980億円の四半期純損失となり、通期では2,860億円の営業損失、2,850億円の経常損失、3,110億円の当期純損失を見込んでおります。」

事業者再生ADRとは

 ところで、事業再生ADRとは、経産省の認定法人が仲介して、全金融機関に対して債務返済の一時猶予を得ようというものである。3年以内の黒字化が求められる。事業再生実務家協会(JATP)が、08年11月に経産省から同法人として認定されている。ADR手続きをとっても、上場廃止の要件に当たらないため、アイフル東証一部上場企業であり続ける。また、私的整理と言っても、同法のADR手続は、金融機関からの借入金しか対象としていないので、他の債務者に対する支払猶予交渉は個別に行う必要がある。会社更生法民事再生法と違って、裁判所の強制力で債務が減額されることはない。100万円の過払金は100万円のままである。
 今までも、企業の私的整理は行われてきた。しかし従来型の私的整理には大きな欠点があった。こうした整理は、多くの場合企業とメーンバンクが相談して行うが、メインバンクが主体となって再建計画を作成・調整することになるため、他行の合意を取り付けにくかった。こう言った場合、メインバンクは頭を下げる立場のため、自ら率先して債権放棄をしなければならず、二の足を踏ませることになった。また最近は協調融資が多くなり、そもそもメインバンク的存在がなく、調整の担い手がいない場合もある。ADRでは事業再生で実績のある弁護士や公認会計士が仲立ちするため、銀行団の合意を得やすい。

過払金への影響

 銀行への支払が少なくなるので、本来は過払金の支払も楽になるはずだが、アイフルはそれを絶対認めないだろう。福岡の地場業者しんわは、取引銀行との間でデット・エクイティ・スワップといって銀行の債権を株式に切り替えもらったり(買戻し条項もついているらしい)、利息の支払も止めてもらったりと、私的整理の内容としてはアイフル以上のことを行っているが、まだ存続しているし、減額ながら過払金を支払っている。アイフルは、銀行に対して元金の減額を求めない、デット・エクイティ・スワップは行わないと言っているから、財政状況もしんわほどではないのかもしれない。

事業再生ADRの実例

 日本エスコンという上場企業がある。この会社の例にとって事業再生ADRの説明をしよう。同社は平成21年6月22日事業再生ADR手続利用についての申請をJATPに対して行い、同日受理された。同社は、同日付でJATPとの連名で、全取引金融機関に「一時停止の通知書(借入金元本返済の一時停止等)」を送付した。
 JATPは公正中立な立場から、資産負債内容を調査し、同社に指導、助言を行い、上場維持を前提として、借入金に関わる全お取引金融機関と弁済スケジュールの変更を含めた事業再生計画案の協議を行うというものだ。いわば、JATPが仲介となっての、私的整理手続きと言っていい。
 7月3日の第1 回債権者会議が開かれるが、それまでの間の運転資金としてメインバンクが約25億円を融資した(DIPファイナンス)。
 第1回債権者集会には、手続債権者たる金融機関20行が出席。事業再生ADR手続の手続実施者として、出水順弁護士、溝端浩人公認会計士が選任された。同会議で、全債権者の同意を得て、借入金元本返済の一時停止期間が9月28日まで延長された。メインバンクが既にした約25億円の融資と、さらに事業再生計画案の決議が行われる第3回債権者会議までに行われる予定の15億円の融資に関し、これに対する弁済を、他の手続対象債権者の債権より優先的に扱うことについても、他行の承認を受けた。
 事業再生ADR手続では社債権者は対象とされていないため、7月22日に、償還期限が来ている第1回、第2回社債についてそれぞれ債権者集会が開催され、9月28日までの支払猶予が承認された。同決議について、東京地裁において、決議の認可の申立がなされる、認可時に、その効力を生じることになる。

アイフル債権者集会(09.10.6追加)

 アイフルが9月24日付で発表した事業再生ADR手続のスケジュールは以下の通り。

  • 平成21年10月 8日 第1回債権者会議(事業再生計画案概要説明等)
  • 平成21年11月下旬 第2回債権者会議(事業再生計画案の協議)
  • 平成21年12月下旬 第3回債権者会議(事業再生計画案の決議)
アイフルの今後の展望について新見解(09.10.6追加)

 金融ジャーナリスト伊藤歩氏が、10月6日付日経ビジネスオンラインの署名記事で、アイフルの営業キャッシュフローからすれば負債は3,4年で完済できる、資金繰りが厳しいのはこの2年間だけ、被担保営業貸付金もまだ半分有るので追加担保設定することで支払猶予交渉は十分可能、等を理由に、ADR手続をするのは大げさで、真意はMBO狙いではと主張する。異論ではあるが、こういう見解もあるのだということは頭の片隅に置いておいてもいいかもしれない(http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20091002/206210/?ST=print)。

  • 8265億円の有利子負債中、1年以内に弁済期限が来るのは4152億円で、内訳は社債が1080億円で借入金が3072億円
  • 年間営業CFを前期比3割減と見ても、1680億円。社債の償還分と、利払分を除いても、400億円以上は浮く。
  • 次年度で償還期日が来る社債は856億円。次々年度が976億円で、その次になると200億円に減る。これに対し借入金の返済額は、11年3月までの2年間で1473億円、12年3月までに625億円、13年3月までには125億円。苦しいのは今後2年間だけ。
  • アイフルの1兆円を超える営業債権のうち、担保設定を受けているのは半分足らず。追加担保設定などの条件を提示しながら交渉すれば、十分リスケには応じてもらえるレベル(アイフル同様過払い請求に苦しむノンバンクの現役財務担当者)
CDSのクレジットイベントに当たらず

 CDSとは、債務者が破たんした場合の保険。予め保険料を払って保険に加入しておけば、債務者が破たんしても、債務額を保証してもらえる。アイフルへの債権についてCDSをつけている債権者は多い。アイフルのADR手続申請は、債務の減額ではなく、支払の猶予に過ぎないため、保険事故=クレジットイベントに当たらず、現状では保険金は出ないことが確定したらしい。金融機関にとっては予想の範囲内で、特に意外感をもって受け取られてはいないようだ。
 これで思い出すのはGMの破たん処理だ。GMは再建型再生を目指したが、債権者の多くがCDSをかけていたため、「再建なんていい。破たんしてくれ。そうすれば保険金が貰えるから。」と考え、再建の阻害になったらしい。あおぞら銀行アイフルへの貸付にCDSをかけていたようだが、日経の取材に対しては「影響ない」と回答していた。真意はいかほどか。あおぞら銀行CDSの保険元との間に一定の関係があって、保険元の意向を受けて、再建に応じるといういこともあるのだろうか。(09.10.10追加)
以下は、エキサイトニュース10月19日から引用
住友信託銀行など主力行は、アイフルを支える姿勢を崩していないが、債権者の一部には「あおぞら銀は、アイフルの法的整理に軸足を置き始めたのではないか」とする疑心暗鬼もくすぶり、年末に向けた再建手続きは波乱含みとなりそうだ。」
(09.11.1追加)

10月8日債権者会議

 10月8日の債権者会議が終わったが、情報が流れてこない。紛糾したのであれば、ニュースになるだろうから。とりあえずは無事終わったのであろうか。今後も注視していきたい。ただ、第1回債権者会議は、事業再生計画案概要を説明するためのもので、決議は11月下旬に行われる予定の債権者会議で行われる。それまでの様子見といったところか。(09.10.10追加)

12月24日アイフルADR成立

 12月24日、第3回債権者集会が開かれ、アイフル提案のリスケジュール案に全債権者が同意。ADR手続が成立した。(09.12.24追加)

リスケジュールの内容

 アイフルニュースリリースを引用する。

第3回債権者会議における決議に基づく全対象債権者の皆様全員との合意により、本事業再生計画における対象債権のうち上記貸付金債権元本全額について、平成22年9月29日までの残高維持及び平成22年9月30日に100億円、同23年6月10日、同24年6月10日、同25年6月10日、同26年6月10日に各165億円ずつを弁済原資としてお支払いを行うことを主たる内容として、対象債権の元本返済期限を繰り延べ、弁済スケジュールを変更させていただきました。
なお、計画期間後の残存債務については、平成26年7月10日までにリファイナンスを受けるか、または同日以後の弁済方法につき対象債権者に提案の上、合意を取得する予定といたしております。