GDP3.7%増の意味するもの

GDP実質3.7%増の虚飾

 内閣府経済社会総合研究所8月17日発表の09年4−6月期の実質GDP速報値は、前期比で0.9%増、年率3.7%増となった。
 しかし増加になったのは実質GDP。名目GDPは前期比0.2%減で、年率0.7%減となる。

名目GDPと実質GDPの違い

 名目GDPに比べて、実質GDPの方が「実質」という字が付いているだけ、何となく現実に即した数値であるかのように見えるが、経済成長の実態を表しているのは名目GDPのほうだ。
 名目成長率は、統計データそのままの数値だ。しかし、実質GDP成長率は、インフレ率、デフレ率を考慮して修正された数値だ。仮に給料が2倍になったが、インフレでモノの値段も2倍になったとする。その場合、名目GDPも2倍になるが、国民一人ひとりにとっては、給料が上がっても物価が上がったら、買える商品の量は同じだから、経済成長の実体がない。名目GDP上昇分と物価上昇分を差し引き勘定する実質GDPというものが必要になる。
 しかし、実質成長率はインフレにも影響されるが、デフレにも影響される。名目GDPが下がっても、同じペースで物価が下がってくれれば、国民の購買力は変わらない。だから1年間で、名目GDPが2分の1になっても、物価が2分の1になれば、実質GDPは前年度と変わらないということになる。
 4-6月期に実質GDPが上昇したのは、国内生産が増えたのではなく、国内生産は減ったが、それ以上に物価が下がったために、実質GDPが上がっただけなのだ。
 世界的現象でもあるが、現在日本国内でも消費者に節約志向が高まっている。そのため物価が下がっている。安く買えること自体は有難いことだが、その分商品を作る側は売り上げが減ることになる。売り上げが減れば、従業員の首を切り、失業者が増える。失業者が増えると、消費者が生活防衛のため安い商品しか買わなくなる。そうすると売り上げが減り、失業者が増え、物価が下がる。これをデフレがデフレを呼ぶ状態をデフレスパイラルという。

エコノミストの見解

 GDP3.7%増を喜んでいるのは、自称「経済の麻生」こと麻生首相だけである。今頃自分の景気対策自画自賛していることだろう。しかし、エコノミストの評価はシビアだ。エコカー減税も、家電エコポイントも消費の先食いと見ている人が多い。確かにこの二つの景気対策で、車の販売量、家電販売高は増えた。しかし、これも来年買おうと思っていたが、安いうちに買おうと前倒しで買ってしまっている人も多いだろう。要は来年、再来年売れる分を今売ってしまったわけであるから、その分来年、再来年は車、家電の売り上げが落ちてくるのではないか。
 さらには雇用情勢の悪化がある。6月の完全失業率は5.4%。「働こうと思えば働けて、働きたいを思っているのに仕事がない人」のことを「完全失業者」という。だから、失業して専業主婦に戻った人、ハローワークに行っても仕事がみつからないため、就職を諦めて実家に戻り親の援助で暮らしている人、週1回ほどのバイトをしている人は完全失業者にはカウントされない。だから実際の失業者はもっと多いだろう。それにしても5.4%は多い。現在でも企業に雇用の過剰感は強いというから、さらに失業者は増えるだろう。また設備の過剰もあって、設備投資という内需エンジンもない。
 日経のエコノミストへのアンケート結果を見ると、7-9月期にさらにGDPが上がるとの見通しを立てているのは11人中2人、さらに10−12月期にGDPが今回の3.7%以上に上がると考えているエコノミストは一人もいない。10年度の成長率見通しは11人の平均で1.1%。さびしい数字だ。