エルピーダは公的資本を注入する価値があるのか

エルピーダメモリーに公的資本注入

 経産省は6月30日、日本で唯一のDRAM専業メーカのエルピーダメモリに対し、産業再生法に基づき公的資金による資本注入を行うことを決定した。8月をめどに300億円の第三者割当増資を実施し、政投銀が全額を引き受ける。損失が発生した場合、国が8割を税金で穴埋めする。また、政投銀は併せて100億円を融資する。主要取引行4行にも1000億円協調融資をさせる。同案件は、公的資金の一般事業会社への資本注入第1号となる。
 エルピーダは3カ年の事業再構築計画を政府に提出し、30日付で認定された。高機能DRAMの製造設備を導入。台湾メーカーと提携し、収益性の改善を目指す。

首位のサムスン電子を追走すると言うが、、

 エルピーダの世界シェア(09年1〜3月)は14・8%と、韓国のサムスン電子の34.1%、同じく韓国のハイニックス半導体の21.4%に次ぎ世界3位。デジタル家電の販売急減などでDRAM価格がピーク時の6分の1まで急落した昨秋以降、体力の弱いエルピーダは深刻な経営危機に陥った。
 システムLSIと異なり、製品の差別化が難しいDRAMは、巨費を投じて最先端設備を導入しコスト競争力を高め続けなければ生き残れない。技術ではなく、体力勝負の業界だ。エルピーダは新たに得た1600億円を元手に、デジタル家電向け最先端DRAMの生産設備を整備。台湾政府支援で設立される半導体新会社「台湾メモリー(TMC)」との資本提携する。採算性の低いパソコン向けDRAMは台湾に生産を移すことで韓国勢に対抗する戦略だ。
 しかし、トップのサムスン電子は、一毛作エルピーダとは違い、DRAMでもうけが出なければ、他の電機製品で売り上げを補うことも可能。企業規模も比較にならず、体力勝負でもかなわない。しかもサムスン電子は、薄型テレビ、デジタル家電という最終需要先を豊富に抱えている。どう見ても勝ち目はない。
 また当初の構想では、台湾政府の支援の下、台湾国内のDRAMメーカ6社が、新設されたTMCに参加するハズだったが、互いの対立から一部しか参加が得られないという。

経産省が主導した既定路線

 今回の公的資金注入は最初から結論有りきだ。4月14日、経産省の木村審議官は、エルピーダの坂本社長を連れて、台湾当局、TMC幹部と会談している。日本政府、台湾政府の官主導で業界の再編を行ってきた。今さら引くに引けないのである。

エルピーダ公的資金を投入する必要があるのか

 DRAMが産業のコメであることは確かだが、そのコメを国内で作るのが国策かといえば、そうではないだろう。貴重な公的資金を産業界に投じるならば、技術力の集積を要し、将来の需要増が望める事業に投資すべきだ。体力勝負のDRAM業界に投じるのは、国全体の利益からはずれている。独のDRAMメーカ、キマンダは独政府の支援を得られず破たんしている。
 伊藤忠の丹羽会長は、日経のインタビューに答えてこう言っている。「危機だから何でも許されるという風潮は良くない。(産業再生法で)救おうとしているのは市場や金融機関がノーと言った企業だろう。それならなぜ政府がイエスというのか。理由をつまびらかにすべきだ。」
 次の救済企業は日航だ。

宿題は果たせているのか

 06年2月の講演で坂本社長は「日本の場合は、お客さんごとのカスタムチップを作っています。私がいた日本テキサス・インスツルメンツ(TI)などはそういう作り方をするのではなくて、ティーチャー・カスタマーがいて、それが日本、ヨーロッパ、アメリカなどにあって、そこのお客さんと意見を交わしながら製品を作ります。時々はティーチャー・カスタマーがもっと進んでカスタマーズ・カスタマーになって、たとえば携帯電話を使うユーザーと話して製品開発をします。ですから1つの製品がたくさん売れるわけです。結果として、日本の場合は設計者が60〜70%、アプリケーション技術者が30〜40%ぐらいです。私がいたTIは20〜30%ぐらいが設計者で、アプリケーション技術者が70〜80%ぐらいです。ここが強烈な差として出てきていると思います。」と言っている.
顧客ごとのカスタム品を開発するのではなく、一定の共通仕様を提案するプラットフォーム戦略を進め、製造効率を上げて行こうということだ。至極まっとうな方向性だが、どれだけ実現できたのだろうか