粗鋼生産量上位10社に中国企業4社がランクイン

追加 新日鉄住友金属工業の合併関連

 新日鉄住友金属工業が合併することとなった。規模が全てではないが、目的は三つあろう。

  1. 原材料の高騰に対抗し、価格交渉力を高める。
  2. 海外で鉄鉱石、原料炭の自社権益化を進める。
  3. 新興国メーカーとの価格競争に勝つべく、コストダウンのための開発費の負担増大への備え。

 同合併についての独禁法上の問題については以下を参照されたい。
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20110206/1297002679
 (2011.2.7)

08年の粗鋼生産量上位10社

 08年の世界鉄鋼生産量、1位はアセロール・ミタル、2位は新日鉄と順位は変わらないが、3位に上海宝鋼集団が躍り出た。粗鋼生産量上位10社の中に河北鋼鉄集団(6位)、武漢鋼鉄(7位)、江蘇沙鋼集団(9位)と中国鋼鉄メーカーが4社も入っている。インドのタタ製鉄も8位に位置している。JFEは3位から5位に後退した。

中国で進む寡占化

 中国には従来小規模の鉄鋼メーカーが多かった。中国政府は05年7月20日、鉄鋼産業の発展を目指す政策要綱を発表した。要綱では、2010年までに、大型企業の中から条件にあった企業を選び、生産能力3000万トン級の超大型企業に再編していく方針なども示された。以後中国では寡占化が大変な勢いで進んでいる。08年の上半期には、山東鋼鉄集団、広東鋼鉄集団、河北鉄鋼集団が相次いで設立され、国内粗鋼生産量上位10位企業による粗鋼生産量が1億919万3300トンと、全国粗鋼生産総量の41.37%を占め、産業集中度が前年同期より5.28%上昇した。
 今回6位の河北鋼鉄集団も、年間粗鋼生産量2275万トンの唐山鋼鉄集団と、900万トンの邯鋼集団が合併してできた。この唐山鋼鉄集団と邯鋼集団も6社が統合してできた会社だ。
 上海宝鋼集団は、09年3月、生産量400万トンの寧波鋼鉄を買収したが、さらに包頭鋼鉄集団(内モンゴル)も吸収合併する予定だ。また中国は4兆元の景気対策で公共事業を大きな柱としているため、鋼材需要が増えている。来年には新日鉄を越して2位になるはずだし、それどころか宝鋼集団は12年には粗鋼生産能力8000万トンを目指している。これは新日鉄の生産能力の実に2.3倍だ。

補助金

 中国政府は合併前の旧型高炉などの設備を廃棄して、高効率で省エネルギーの大型新鋭設備を建設する際に補助金を支給する方針だ。

中国の狙い

 中国が集中を進めるのは、技術開発を進めるためにも、その資金確保のため規模が必要だからだ。さらに中国は海外の技術力ある製鉄会社を買収することも当然考えているだろう。海外の技術力ある製鉄会社を買収すれば、技術を獲得できるからだ。特に狙っているのは自動車用の高級鋼材だ。
 もう一つは鉄鉱石の確保だ。宝鋼集団は07年には英豪系鉱山会社のリオ・ティントの買収も検討していた。結局断念はしたが、宝鋼集団は、豪鉄鉱石鉱山開発フォーテスキュー・メタルズ・グループと資産の買収で協議していることが、09年2月に分かっている(http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK838254720090218?feedType=RSS&feedName=marketsNews)。安定した価格での資源確保を考えているのだが、日本の製鉄企業もこういった買収は積極的に考えていいだろう。08年10月新日鉄等の日本企業連合がブラジルの鉱山会社に3000億円出資して鉄鉱石権益を確保した。

タタ製鉄も6位

 6位のタタ製鉄は、20万円の車ナノを作ったタタ自動車のグループ会社である。もともとタタは粗鋼生産量世界53位に過ぎなかった。そのタタが06年世界9位の英蘭企業のコーラスを買収したため、大が小を飲んだと話題になった。
 タタは、右買収により、自動車用などの高級鋼材の生産技術を獲得した。そして、インドで産出する鉄鉱石をコストの低い地元で半製品にし、イギリスで高級製品化する。
 タタにはもう一つのメリットがある。世界1位のアルセロール・ミッタルが、タタを買収しようと狙っていたのが、これで不可能になったからだ。タタを買収すれば、コーラスの事業も取得することになり、欧州市場で独禁法に抵触する可能性が高いからだ。

アルセロール・ミタルの危機が去る

 新日鉄が脅威に思っていたのは1位のアルセロール・ミタルだ。同社は合併を繰り返し、年間粗鋼生産量は約1億トンで、新日鉄の3倍近い。同社はその豊富な資金力で、新日鉄等日本の製鉄会社の買収も狙っていた。一時期、アセロールミタルの時価総額新日鉄時価総額の差が約11兆円にまで広がっていた。しかし今回の世界的な不況でアルセロール・ミタルの株価は6分の1に激減、新日鉄は6割減にとどまった。株価総額では新日鉄と1兆円の差に縮まった。このため同社によって新日鉄が買収される可能性は遠のいた。

鉄鉱石価格決定権を狙う中国

 鉄鉱石はリオドセ、BHPビリトン、リオ・ティントの三社による寡占状態。鉄鋼業者は毎年、各社個別に、この三社と価格交渉をするのだが、最初に合意に達した価格が、その年の統一価格となる商慣習が成立する。
 06年は、ドイツ最大手のティッセン・クルップが19%の値上げで合意し、それが同年度の鉄鉱石統一価格となった。しかし宝鋼のみがそれに従わず、値下げを要求。最終的には統一価格を飲んだが、価格決定で主導権を握りたいとの意志は明らかだった。
 07年度の価格交渉では。新日鉄が提携関係にある韓国のポスコと共同で価格交渉を行うと発表。しかし宝鋼はリオドセとの間で早々と9・5五%の価格引き上げを決着、07年度の統一価格となり、新日鉄の野望は実らなかった。
 中国の鉄鋼企業は価格支配を狙っているし、それは実現するのではないか。
http://joyo-net.com/rensai2/koukaku/koukaku061229.htm

国税制優遇で高価格品を後押し

 中国政府は4月1日から一部鋼材輸出の増値税還付率を引き上げた。厚板、熱延コイル、線材など汎用品は今回は対象外とし、付加価値の高い製品に限って輸出奨励策を強化した。選択と集中といったところだろうか。中国は量より質に目を向けて政策誘導している。ただ、中国のこうした輸出支援には、米国業界団体が反発を強めており、今後、通商摩擦となる可能性が高い。

追加:09年需要見込

 世界鉄鋼協会の09年世界需要見込は前年比14.9%減、米国は同36.6%減等先進諸国では大きな需要減が予想される。しかも、今秋回復見込みでこの数字だから、今秋に需要回復がないとさらなる落ち込みとなる。

追加:09年1-3月期の各社の業績

 先進国企業は粗鋼生産量が前年同期比で急減している。アルセロール・ミタルは48.8%減で、10億6300万ドルの損失。USスチールは56.1%減で、4億3900万ドルの損失、新日鉄は46.2%減で、570億円の損失となった。
 他方好調なのは中国、韓国勢。粗鋼生産量の前年同期比は、宝山鉄鋼が10.3%減にとどまり、8900万元の黒字、ポスコは25.2%減にとどまり、3250億ウォンの黒字となった。

追記

 鉄鋼大手の首都鋼鉄集団は中堅の長治鋼鉄株90%を5億元で買収、同集団は鋼材の年産規模を2012年までに600万トンに引き上げる計画だ。宝鋼集団は寧波鋼鉄株56%を取得、広東鋼鉄の子会社化も進めている。天津市では4つの国営企業経営統合に合意し、2000万トン級の生産量を持つ見通しだ。山西省でも15年までに省内の200社超の鉄鉱企業を10社以下に削減した上で経営統合し山西太鋼集団を設立する予定だ。
 中国は、6億6000万トンの供給能力に対し需要は4億7000万トンにとどまり、1億9000万トンも余剰があるため、業界再編が必須となっている。

中国企業、鉄鉱石を結局33%ダウンで購入

 09年8月、豪鉄鉱石3位のフォーテスキュー・メタルズ・グループは、中国鉄鉱業界と09年7〜12カ月の鉄鉱石を前年度より35%引き下げることを合意したが、値下げと同時に中国企業がフォーテスキューに60億ドルの融資を行うことが条件となっていた。中国の目的は、とりあえずフォーテスキュー社と35%ダウンで合意しておいて、その成果をもとにリオ・ティント、BHPビリトンと交渉して、両社が日韓企業と合意した33%のダウンを上回る好条件を獲得しようとしたのである。
 しかし、リオ・ティント、BHPビリトンは頑として33%ダウンの主張をのまなかった。そのため中国は、フォーテスキューに融資するだけのメリットがなくなったため、60億ドル融資を撤回した。
 中国政府が鉄鋼メーカーの再編を急ぐ理由として、ヴァーレ等の鉄鉱石大手との価格交渉力を強化する狙いがある。
※中国自動車産業については↓
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090510/1241946329
人民元の逆襲
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090326/1238029993
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090324/1237913843
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090201/1233459392
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20081119/1227079455
※中国に犯罪人として引き渡されるおそれ
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090301/1235963207
※四兆元景気対策
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090106/1231244720
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090117/1232212988
北朝鮮有事に中国はどう動くのか
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090217/1234873890

鞍本鋼鉄集団

 10年5月26日、鞍本鋼鉄集団と四川省鉄鋼中堅の攀鋼集団との経営統合が認可された。同グループは北台鋼鉄集団も合併することになっており、そうなれば、アセロール・ミタルに次ぐ二番手に躍り出ることになる。鞍本は自動車用鋼板、攀鋼は鉄道レールや特殊鋼、北台は建設用棒鋼にそれぞれ強みを持っており、商品展開においても競争力が高まるとみられている。