振り込め詐欺協力容疑で中3少女逮捕

中3少女を詐欺容疑で逮捕するのはおかしい

預金通帳などを他人に譲り渡すために銀行に口座を開設し、通帳とキャッシュカードをだまし取ったとして、千葉県警松戸警察署は、08年11月13日、詐欺容疑で柏市の中学3年少女(15)を逮捕した。老女が還付金詐欺にあって200万円をだましとられたという事件がその前月にあり、その犯罪でこの少女が作った口座が使われたという。
(08年11月14日東京新聞朝刊)
他人に譲渡する目的で通帳を作ることが詐欺罪になるとは思えない。仮に詐欺罪の要件に該当するとしても、特別法たる犯罪収益移転防止法が成立する以上は、同法が優先して適用され、詐欺罪は適用されないはずだ。

犯罪収益移転防止法

犯罪によって得られた収益を野放しにしておくことは、組織的犯罪を助長するだけでなく、犯罪収益が企業に移転することで企業が犯罪社会に支配されることにもなる。また、犯罪収益が預金、金融商品、不動産等に形を変えて移転することで、被害の回復が困難になる。こうしたことから、犯罪収益の移転を防止しようということで制定されたのが犯罪収益移転防止法だ。
この法律は、暴力団、麻薬組織等によるマネーロンダリングを防止しようとして、できた法律であるが、振り込め詐欺ヤミ金対策に大変な威力を発揮している。
というのは、振り込め詐欺は、直接被害者の前に姿を現さず、電話ででしかコンタクトしてこない。そして振込先の口座には自分名義の口座は絶対使わない。自分名義の口座を使えば、それを通じて、警察の手が自分に及んでくるからだ。だから他人名義の銀行口座を使う。
またヤミ金も、最近は警察に捕まるのを恐れ、店舗を構えるようなことはせず、電話だけでしか被害者に連絡してこない。被害者の家に取り立てにくるというのは昔の話で、今のヤミ金は姿を現さず、金を返さないと、勤務先や家族に電話をしたり、隣近所の人間に電話したり、借主になりすまして救急車を呼ぶ、ピザや寿司を頼むといった、いやがらせをくり返すことで貸金を回収している。だから彼らも絶対自分名義の口座を使うことはなく、他人名義の銀行口座を使うのである。
犯罪収益移転防止法は、他人名義の銀行口座をその他人になり済まして利用する目的で、銀行預金通帳やカードを他から譲り受ける行為を罰しているが、相手にそのような目的があると知りながら自分名義の銀行口座の通帳やカードを渡すこと、相手にそのような目的があることを知らなくても通帳やカードをお金をもらって売り渡した者も同様に処罰している。その場合の罰則は50万円以下の罰金だが、こうしたことを繰り返し行っていると、2年以下の懲役、300万円以下の罰金と、刑が重くなっている(犯罪収益移転防止法26条)。
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/bunseki9/20070213_1.pdf

少女を逮捕するのは行き過ぎ

もしこの少女を詐欺罪として逮捕したのであれば、逮捕状自体取り消されるべきである。もしこの新聞報道が誤りで、実際は犯罪収益移転防止法違反で少女が逮捕されたのだとしても、やはり問題だ。少女はこんな法律が存在すること自体知らなかったろうし、こういった通帳がどのように利用されるかも知らなかっただろうと思われるからだ。しかも同法違反の法定刑は罰金刑のみ。果たして逮捕までする必要があったのだろうか。
しかも、匿名とはいえ、新聞の全国版にまで載ってしまっている。警察としては、一般に警告する意味であえてマスコミに情報を流したのであろうが、こうした見せしめは、成人にならいざ知らず、少女に対してするのも行きすぎだ。新聞も自制すべきではないか。

学校でも犯罪防止教育を

こうした犯罪に限らず、少年少女が社会的無知から犯罪に巻き込まれてしまうケースがあとを絶たない。闇サイトでのバイト広告に応じたら犯罪に巻き込まれたとか、買春に利用されたとかいった例もある。
学校でも、こうした犯罪に子供たちが巻き込まれないような教育をしていく必要があると思う。

ネット掲示板で口座売買

11月12日、インターネットの掲示板で預金口座の売買を持ちかけたとして、44歳の会社員ら二人が犯罪収益移転防止法違反容疑で逮捕された。二人は預金口座をネットで4、5万円で仕入れ、携帯電話のネット掲示板で一口座6万円で売る胸の書き込みをしていた。
(11月13日付東京新聞朝刊東京版)
こうした常習者の逮捕こそ、全国版に載るべきだろう。