米国無人機攻撃 ゲーム感覚で殺される民間人

イスラム武装勢力などを殺害するため、米国はパキスタンアフガニスタン国境沿いの部族地域に無人攻撃機を飛ばしている。この無人機ははるか1万キロも離れた米国内の基地で操縦されている。CIAの職員が、モニター画面でテロリストの特徴=シグネチャーと見える動作をした人物を見つければ、ミサイルを発射する。
地元からの情報に基づいてピンポイントで攻撃することもなくはないが、多くは、この「シグネチャーストライク=識別特性爆撃」と呼ばれるものだ。「テロリストの特徴的な動作」がどのようなものかと言えば、『前在パキスタンアメリカ大使のキャメロン・マンターがDaily Beast(米国のネット新聞、月1500万人以上のアクセスがあるとのこと)の記者の取材に対して「20代から40代の男性であることが定義である」「わたしの感じるところでは、ある男の戦闘員は、ある男の――まあ、集会に行った愚か者、といったところでしょう。」などと答えているという。ニューヨークタイムズが政府高官の話を引用したところによると、CIAが「3人の男たちが挙手跳躍運動をしている」ところを発見すると、それはテロリストの訓練キャンプと認識するとのこと。』
http://www.huffingtonpost.jp/arianna-huffington/post_5187_b_3590230.html
そのため、道路近くの畑で腰をかがめて野菜の収穫をしていた老女が「道路に地雷を埋める」テロリストの特徴的な動作を示されたとして、殺されたこともあれば、部族の長老たちが、地元のクロム鉱山をめぐる紛争について集まった集会も、「大勢のメンバーが集まってテロ活動を討議する」テロリストの特徴的な動作が示されたとして、これも殺されてしまった。他にも、地元の聖職者がテロ組織に入らないように説得したところを殺されたりしている。無人攻撃機は高高度を飛んでいるため、同機がモニター上に移す映像も粒子が非常に荒いため、民間人とテロリストの区別もつけにくく、こういった思い込みでどんどん人が殺されている。
戦争犯罪分野においては、合理的な指揮官がアクセスした、あるいはアクセスすべき情報に基づいて合法であると攻撃を結論付けた場合、結果として均衡しない文民被害が発生したとしても、指揮官は刑事責任を負わないという「レンデュリック・ルール」というものがあるが(後述岩本論文)、このようなシグネチャーストライクがこのルールを満たしているかと言えば、甚だ疑問だろう。
無人機攻撃作戦はブッシュJr政権初期に始まったが、オバマ大統領はこれを自らの政権のテロ対策戦略の中心的な柱とした。第1期オバマ政権のパキスタンでの無人機攻撃の回数は、ブッシュ政権時代の2期合計の6倍以上に達している。こうしたオバマ政権を国務長官として支えていたヒラリー・クリントンが次期大統領選挙に出馬するならば、こうした疑問に答える必要がある。
米英(主に米)が行っている無人機攻撃を調査している国連のエマーソン特別報告者は18日、パキスタンでは無人機による攻撃で、これまでに少なくとも市民400人が殺害されたとする報告書を発表した。同報告書によると、パキスタン外務省は2004年以降、少なくとも330回に及ぶ無人機攻撃を確認。その中で約2200人が犠牲となったが、そのうち少なくとも400人が市民だったとしている(ロイター)。報告書はまた、米国に対しては名指しし、無人機攻撃の事実関係や国際法上なぜ許されるのかを「明確にするよう特に求める」としている(10月19日付日経)。
岩本誠吾京都産業大学教授は無人機攻撃における国際法上の問題点として次の点を上げる
1 戦闘員ではなく文民であるCIA は、そもそも戦闘員資格がなく、このような軍事活動が可能なのか否か。
2 無人機(この場合、無人戦闘機)は、兵器として合法か否か、また、その使用方法が合法か
3 対テロ紛争の地域(アフガニスタン)以外での武力行使の法的根拠は何か。たとえば、領域国(パキスタン)の合意によるのか、または米国による自衛権の行使なのか。それとも、対テロ戦争の中立国(パキスタン)による中立義務違反に対する紛争当事国(米国)による救済措置として認められるのか、或いはそれ以外の法的根拠に基づくのか。
4 テロリストを標的とした軍事行動(標的殺害、targeted killing)は、国際武力紛争における戦闘行為なのか、または領域国の依頼による国内治安活動の一環なのか。当該軍事行動を国際武力紛争ととらえた場合、テロリストは戦闘員資格を有するのか。それとも、テロリストは、単なる国内刑事法上の犯罪者なのか。標的殺害の執行手続き(標的の選定基準および選定方法ならびにその法的根拠など)は、事前に公開されているのか。標的殺害には、標的を捕獲しないで当初から殺害するどのような必要性があるのか。
5 現在発生している文民(民間人)被害数から、当該軍事行動は国際法上違法と判断されるのか。換言すれば、軍事的必要性と人道的考慮との比較衡量において、数量的にどの程度の文民の付随的損害が発生すれば、国際法上、違法とみなされるのか
http://ksurep.kyoto-su.ac.jp/dspace/bitstream/10965/823/1/SLR_45_3-4_685.pdf#search='%E7%84%A1%E4%BA%BA%E6%94%BB%E6%92%83%E6%A9%9F+%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E6%B3%95'

無人攻撃機がこのように活用されるのは、自軍兵士を戦場に送らせずに済むため、人的損耗を考えなくてすむことが第一であるが、それ以外にも経済的理由がある。米軍戦闘機パイロットの養成には1人当たり260 万ドルの経費がかかるが、無人パイロットでは1 人当たり13 万5,000 ドルとなり、約1/20 の経費で済む。また、プレデターの機体価格も約450 万ドルで、F22 の約1/85 と非常に安価である。

なお、今回の特別委員の報告がどれほどの影響力があるかであるが、2009 年5 月、国連人権理事会の「司法外、略式または恣意的な処刑に関する特別報告者」フィリップ・アルストンは、米軍が無人機により標的殺害する法的根拠および標的の選択に関する透明性の欠如を指摘し、同年10 月に、無人機の使用と国際法との両立性は「特定個人が標的とされる法的基礎、国際人道法諸原則(区別、比例、必要性、予防)および遵守の事後的評価措置に照らしてしか決定できない」と述べて、米国の説明責任を追及している。これの影響力がどれほどあったかといえば、否定的な評価になってしまうだろう。問題はこうした報告より、報告をどう受け取るかという社会(各国政府、国民、米政府、米国政治家等々)にあると言えよう。