計画的避難区域に見る政府の大罪

計画避難区域の発表

 枝野官房長官は、4月11日の記者会見で、福島県飯舘村など福島県の1市2町2村について「計画的避難区域」に設定すると発表し、域内の住民に対して、1カ月以内をめどに避難するよう要請した。

原子力安全委員会も3月23日には放射線分布を推計済み

 これらの地域の住民たちはこれまで高い放射線量の中で不安な生活を続けていたが、政府は避難指示もせず「安全」と言い続けていた。しかし、原子力安全委員会では、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)を使って、放射線の広がりの推定作業を行っている。3月23日には、既に試算を終えているが、この時点で、飯館村などの1市2町2村に放射線が広がっていることがおおよそ把握されている(http://www.justmystage.com/home/qchan/SPEED1KAISEKI5.html)。この時点で既に計画的避難区域に指定できたのではないか。

3月20日付文科省調査でもチェルノブイリ強制移住基準以上の数値

 文科省が3月20日に行なった飯館村の土壌調査でも、1kgの土壌から放射性ヨウ素が117万ベクレル、放射性セシウムが16万3000ベクレル、1kgの雑草から放射性ヨウ素が254万ベクレル、放射性セシウムが265万ベクレルが検出された。土壌中のセシウムは通常の1600倍以上だった。京都大原子炉実験所今中哲二助教授は、土壌のセシウムで汚染の程度を評価し「汚染土を表面2センチの土と仮定すると1平方メートル当たり326万ベクレルで、これはチェルノブイリ原発事故の強制移住基準148万ベクレルの2倍超、90年にベラルーシが決めた強制移住基準55万5千ベクレルの約6倍」だとの指摘を行っています。(京都新聞 http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20110328000068

放射線をすっかり浴びた後の避難勧告

 こうして見ると、避難勧告は時期を余りにも失している。4月12日発表のあった、待機中への放出放射性物質の量は37万ないし63万テラベクレルとされるが、この大部分が3月15〜16日に放出されたということだから、これら計画的避難区域の人たちは1カ月間も政府から「安全だ」と欺かれていたことになる。今さら被曝した放射線をどうしようもない。地元の人々は「国に裏切られた気分だ」などと怒っているというが、当然だろう。
 ことにこの区域で、安全と信じて生活していた妊婦や、乳幼児をもつ家庭にどう言い訳するのだろうか。
 レベル7への引上げについて、ドイツのニュース専門チャンネルは「レベル7は人間の健康と環境に大きな被害を与える。日本人は今回の原発事故の意味をやっと理解したようだ」と批判的に報じているという。ちょっと待ってくれ。馬鹿なのは日本人じゃない。日本の政治家、東電、御用学者、マスコミそして経産省官僚なのだ。

ドライベントの隠ぺい

 東電は、3月15日午前0時から数分間、福島第1原発2号機で原子炉格納容器内の放射性物質を含む蒸気を外に逃がす「ベント」を行った。しかも、それまでに行われていた「ウェットベント」ではなく、「ドライベント」だった。格納容器につながる圧力抑制プール内の水を通して行うウェットベントと違い、蒸気を直接逃がすため、放射性物質を大量に放出する。ドライベントヨウ素に加えて加えて、セシウムストロンチウムなど粒子状の放射性物質も、より多く放出される。各地の放射線観測数値も、15日に跳ね上がったのはこのドライベントが理由だった。
 しかし、東電はこれを隠ぺい、3月20日になって「16日から17日にかけて実施した」と嘘を言ったが、ようやく21日になって、15日にドライベントを行ったことを認めた(http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110321/dst11032111150032-n1.htm)。
 しかし、東電はなぜ、それをすぐ発表しなかったのか。14日22時50分、2号機格納容器圧力異常上昇。当初ウェットベントを行おうとしたが、上手く行かず、緊急措置としてドライベントを行ったということだが、行った直後にそれを発表すべきであろう。そして当日の風向きから、西北方向に放射線物質が拡大する恐れがあるとして、屋外に出ないように呼びかけるべきだった。それをしなかったため、飯館村ほか多くの人が被曝した可能性がある。
 しかも、14日くらいから、ドライベントをせざるを得ないかもしれないとの報道があった(http://astand.asahi.com/magazine/judiciary/articles/2011032200005.html)。であれば、14日のうちに乳幼児がいる家庭にヨウ素剤を配布して上で、「いつドライベントが行われるか分からない。寝るときは窓を閉めて、ドライベント実施の報道が行われたらすぐにヨウ素剤を服用するように」との広報が行われるべきだったのではないか。
 実際21日の記者会見では次のようなやり取りがあった。
21日の記者会見では次のようなやり取りがあった。
問「ドライベントは通常のウェットベントとは違い、その際に放出される核種・線量が全く変わるので、これは重大なことであり、ドライベントの際には必ず報告するという話だったが、弁を開けたが出なかったといった報告しか今まで我々は受けていない。ところが実際にはやっていたということで、この情報が何でこれだけ変わったのか、説明して欲しい」
答「当時の経過なども踏まえて、もう一度確認して報告する」

地方選への影響が考慮されたのか

 レベル7にしても、37万または63万テラベクレルにしても、この放射線の広がりの予測にしても、みんな既に分かっていたことだろう。この時期に発表されたのは、統一地方選が終わったからということはないのだろうか。時期が時期だけにそういう疑いを消しきれないのは自分だけではないだろう。