米就業者15万人減・9月5年ぶりの大幅悪化/「金融危機内閣」に・ブラウン英首相が改造・政敵マンデルソン氏入閣/金融法案、米下院、修正案採決へ

サブプライムショックからプライムショックに)

サブプライムショックが止まりません。
米政府は今年3月にファニーメイフレディマックという米最大の住宅ローン保証会社、ベアースタインズ証券を救済し、これでサブプライムローン問題も終息するだろうと考えていました。
しかし、9月15日にリーマン・ブラザーズが経営破たんし、米国最大手の生命保険会社AIGも資金ショートしました。9月29日には、米銀首位のシティグループが米銀4位で破綻が懸念されていたワコビアの銀行業務を2300億円で買収するとのプレス発表もありました(10月4日には、米銀5位のウェルズ・ファーゴがシテイを上回る好条件を提示したため、ワコビアは買収先をウェルズ・ファーゴに乗り替えた。)。
ワコビアは、サブプライムローンでも損失を作りましたが、ここに来て破綻のおそれがでてきたのは、同銀行が積極的に進めていた商業不動産への融資案件の焦げ付きでした。サブプライムだけではなく、商業用不動産融資にも不安感が持たれてきたということです。

ファニーメイフレディマックの発行証券は5兆ドル〜日本の1年間のGDP並)

労働省の発表によると、非農業部門の就業者人口が、本年度1月から9月までの9ヶ月間で合計76万人も減少し、しかも減少のスピードは速くなっています。そうなると、サブプライムローンだけでなく、プライムローンの焦付も増えてきます。実際、8月の住宅差押え件数は前月比+11.7%の30.4万件に達していますが、06年は月間10万件であったから、3年間で3倍にもなっているのです。
プライムローンの焦付が拡大すると、米国の政府系住宅ローン保証会社のファニーメイフレディマックの経営状態にも影響しかねません。両会社の証券の発行残高は、約5兆ドル(約530兆円)。日本の1年間のGDPに匹敵するほどの額であり、この両社の破たんなど考えたくもない話です。

金融危機の英国の就業人口の20%は不動産業と金融業)

英国の住宅価格は、88年から08年に向け4倍にも上昇しており、それが英国の好景気の大きな要因になってきました。また英国の好景気を支えてきたもう一つが金融業の発展でした。英国の就業人口の20%もが、不動産業、金融業に従事しており、国全体が金融業をなしているような感じです。
英国には、そもそも、サブプライムローンとプライムローンの区別がありません。英国の大手金融機関の大半は、所得証明も求めずに住宅ローンを提供しています。買い手にも、銀行にも、不動産は今後も上がるだろうという共通の認識があったため、支払い能力すら問題にならなかったのです。こういったこともあり、英国の平均住宅価格はすでに、平均所得の11倍となっているのです。
もっとも英国は04年以降、住宅価格の下落が続いていました。しかし、将来に対する期待もあって住宅市場も堅調に推移していましたが、もう続かないでしょう。
就業人口の20%が不動産業、金融業の英国で、金融危機、不動産バブル崩壊が起こればどうなるか。

(欧州のコンクリートの半分を消費すると言われていたスペインも不動産バブルが崩壊)

05年、スペインは年間80万軒もの住宅を建築しているが、これはドイツ、フランス、イギリスのそれの合計を超えている。これは実需というより、不動産投機であり、その結果1400万戸の住居のうち300万戸が空き家となっている。
こうした不動産投機の結果、住宅価格は2001年から2004年の間に、89%も上がった(その間給料は14%しか上がっていない)。ちなみに住宅価格は1998年から2005年の間に150%上がっている。
同国の銀行の貸出債権の半分以上が不動産関連、欧州のセメントの半分以上がスペインで使われていると言われています。
個人の負債も欧州の他の国が8%しか増えていないのに、スペインでは25%も増えている。
08年になって、スペインの不動産バブルも崩壊、同国経済は昨年までの4%近い成長からほぼゼロ成長に減速。スペイン政府は8月14日、臨時閣議を開き、特別融資枠の設定や税還付、公共工事の増加を柱とする総額6兆円強の景気対策を決めました。

(デカップリング理論も崩壊。中国経済の崩壊)

カップリング論というのはご存じでしょうか。米国経済が減速しても、他国経済、とくに新興国経済の成長がこれを補完するので、景気は後退しないという理論です。しかし米国は輸出が1.04兆ドル、輸入が11.85兆ドルと、世界の経常収支の赤字の8割を引き受けています。これだけの消費大国米国の不景気が他国に影響しないはずがありません。 実際、米国経済の悪化が、世界各国の経済の悪化をもたらしています。
とくに、新興国を代表する、中国の景気もよくありません。あえて大雑把に言えば、中国は、全体経済を考える中央政府と、党幹部が私的利益を考える地方政府の二重構造によって成り立っています。これまで、中国の経済成長のかなりの部分が公共投資、設備投資によって作られてきました。中央政府は「投資から消費へ」と、この経済の歪みを調整したいのですが、地方政府は住民から富を収奪し私服を肥やしています。マカオはカジノ景気に沸いていますが、これは中国共産党幹部が住民から収奪した富を博打に使っているからです。公共投資が多いのは、例えば社会福祉予算を増やすより、箱物、道路の方がバックマージンを受け取りやすいからです。四川大地震で周りの建物がそのままなのに、学校が倒壊し、オカラ校舎と言われ、社会問題になりました。これは地方党幹部が学校建設業者から賄賂をとったため、その分学校建物が手抜き工事になってしまったからでした。中央政府は国民のため(本音で言えば共産党体制を守るため)、賄賂撲滅キャンペーンをしたりしていますが、いわば泥棒に泥棒を取り締まれというようなもので、全く効き目がありません。中央政府内需拡大を目指し、労働契約法を改正し、長期雇用者に終身雇用制を義務付け、沿海で最低賃金制を広げたのですが、党内の利権派の巻き返しで改悪されそうになっています。胡錦濤主席は信条的に近い李克強を副主席に付けようとしたものの、党内富裕層「太子党」からの反対で李は副首相にとどめられ、代わって彼らの信任が厚い習近平が副主席になっています。
それでも中国経済が好調ならいいのですが、そうでもなさそうです。05年12月20日に中国国家統計局は、04年のGDPを修正したのですが、修正によりGDPが約2800億ドル=30兆円も増えてしまいました。これによって中国は、英仏等を抜き、世界第4位の経済大国になったのですが、日本のGDPが500兆円程度ですから、その誤差の大きさがよく分かる。これだけ巨額の誤差が出るはずがなく、都合よく数字を書き換えたのでしょう。このように、中国政府の発表する数字は全く信用できません。また06年1月の中国政府発表では05年の貿易黒字額が、前年の3倍、過去最高の1019億ドル=約12兆円に達し、世界最大級の「貿易黒字大国」に躍り出たのですが、これも本当かどうかかなり怪しいものです。
中国の公式統計では、金融機関が抱える不良債権額は08年3月末時点で約1640億ドル、不良債権比率は8%(中国銀行業監督管理委員会)となっています。ところが、世界4大会計事務所のひとつ、アーンスト・アンド・ヤングは、5月に発表した「世界の不良債権(NPL)に関するリポート」の中で「中国の不良債権は控えめに見積もっても9000億ドル(約100兆円)以上で外貨準備を上回る規模」との見込みを示しました。実に公式統計の5.5倍。不良債権比率は40%を超えることになります。
中国は、金融引き締めや景気減速の影響で地価が全国的な急落に転じています。08年初来、不動産価格の急落が広州から始まり、その後内陸の武漢重慶、さらには北京、上海に波及しています。不動産相場は国民年収の20〜30倍にまで上がっており、どこまで下がるか予想がつきません。
上海総合株式指数は07年10月16日に終値で6030をつけ最高値となりましたが、その約1年後の08年9月26日の終値は2294ポイントと、その下落率は、実に38%です。

(米金融危機対策法案可決へ)

最大7000億ドル(75兆円)の公的資金で金融機関の不良債権を買取ることを内容とする法案が米上院での可決の後、10月3日に米下院で可決されました。同法案は9月29日に否決された(NYダウはそのニュースを受け777ドルも暴落)ため、再度大統領側と議会が協議し、仕切り直しとなって、ようやく可決になったのです。
この法案に対する米国民の反発は大変なものでした。日本と同様、米国でも格差社会が問題になっています。そのため、ウォール街の金満連中を助けるために、どうして血税を使わなければならないのだというのが反対派の理屈です。
しかし、不良債権の買い取りをやらないと、金融危機が起きかねません。しかも、それは米国だけの問題に終わらず、世界中に危機をもたらしかねないのです。
さて法案は可決されましたが、問題は、米政府が不良債権をどういった金額で購入するかです。簿価で買えば銀行は喜びますが、政府財政が犠牲になります。回収可能性を見込んだ時価で買えば、政府財政にとっては有利ですが、銀行救済になりません。結局、不良債権時価で回収し、それによって銀行の財務状況は悪化しますが、銀行に対して公的資金を資本注入する(公的資金を貸し付ける)やり方をとることになるのではないでしょうか。そして、それはかつてバブル崩壊後の日本が通ってきた道でもあります。
しかし日本政府の金融危機への対処が後手後手だったのに対し、米政府の対応は日本というお手本があったにせよ、きわめてスピーディーでした。
しかしということは、米政府が、また議会に頭を下げて、資本注入をお願いする時期がやってくるということです(ブッシュとしては、できれば、これをオバマかマケインにやってほしいのではないでしょうか)。