新保険法施行

 平成21年、商法の保険編が廃止され、代わって「保険法」が成立。22年4月から新法が施行されている。重要な改正点は次の点である。

  1. 持病などの告知義務の対象が、「重要なる事実」とされていたのが「重要なる事実のうち、保険会社が告知を求めたもの」に変更。
  2. 保険会社が原因調査に時間がかかっているような場合に、合理的な期間を過ぎた場合は遅滞の責を追う。
  3. 保険の目的物の価格を超える保険金額は無効となっていたのを有効化
  4. 重複して保険に入っていた場合、全保険者に請求しなくともよく、保険者間の不公平は保険者相互の求償権によって解決されるべきものとなった。
  5. 加害者が損害保険に加入していたが、加害者が破産したという場合、旧法では保険金は総債権者のための責任財産の扱いで、被害者は優先弁済を受けられなかったが、新法では被害者に先取特権が認められることになった。
  6. 保険契約者が破産したり、保険解約返戻金債権を差押えされたりした場合、破産管財人ないし差押債権者が保険契約を解除しても効力発生は1か月後となり、その間、保険金受取人が保険契約者の同意を得て、解約返戻金を払うことで、解除は効力を失うことになった(介入権の新設)。
  7. 保険受取人を変更する場合、誰に通知するか争いがあったが、保険者だけにすればよいことになった。
  8. 遺言で保険受取人を変更することが認められるようになったが、保険会社に対抗するためには保険会社に遺言で受取人を変更したことの通知が必要になる。
  9. 保険金の時効期間が2年から3年になった。

武富士軍団増殖中

武富士の過払交渉担当部署のトップの交代

 武富士が「今後任意和解を積極的に進めさせていただくことになりました。HPを見ていただければお分かりになると思いますが、役員が変わりまして」と言ってきた。しかし、何のことは無い。和解金の支払時期についての提案が、6カ月後から1年後に変わっただけだ。
 武富士に言われたとおりホームページを見ると、これまで佐藤健吾常務執行委員が債権管理本部長として、第1債権管理部、第2債権管理部を統率していたのが、第1債権管理部長に降格。代わって、武富士ナンバー3の相田勝則常務執行役員が、第2債権管理部長に就任となった。この第2債権管理部というのは、弁護士との交渉窓口である。
 相田専務は、営業統括本部で武井健晃専務執行委員の部下だった人物で、今回の人事異動も武井専務の肝いりで行われたのかもしれない。

武富士軍団増殖中

 5月のある日、武富士の件で法廷に行って驚いた。傍聴席に目つきの鋭い黒スーツ軍団が背筋を伸ばしてメモを取っているのだ。期日終了後、相手の支配人に聞くと、この軍団は、支配人として養成中の従業員で、勉強のため傍聴しているのだという。
 武富士は、今支配人を猛然と増やしている。昨年夏ころだったか、1年後から分割払いという、到底のめない案を出してきたため、軒並み提訴され、対応が追い付かない。対応が追い付かないため、時効を主張できる案件でも主張がないまま満額で判決をとられるといった事態になっている。自らまいた種で、大変なことになっている。支配人を増やす訳である。
 うちの事務所の案件では、今年の初めくらいから、武富士が支配人が出てくるようになったが、他の小規模の債務専門事務所の扱っている武富士案件では、武富士は全く出てこないという。しかし、そうした事務所に対しても、そのうち支配人がでてくるようになるだろう。

残有り戦線も異常有り

 利限計算をしても貸付け残が残る「残有」。この残有でも、武富士の対応は強硬だ。完済するまで年18%の利息をつけるよう主張して譲らない。うちだけではなく、ほかの事務所に対してもそのように言っているし、債務整理大手系だけでなく、個人事務所の弁護士に対しても同じ対応をとっている。
 ところで、三会統一基準というものがある。東京弁護士会第一東京弁護士会第二東京弁護士会のいわゆる「東京三会」がクレジット・サラ金法律相談において統一して採用している任意整理事件の処理基準だ。他の弁護士会でも同一の基準を作るところがあり、財団法人クレジットカウンセリング協会のクレサラ法律相談では昭和50年代からこれに沿って事件処理するよう指導されている。
 法規性はないが、多重債務者の経済的更生を図るために不可欠な内容と評価されている。そしてこの三会統一基準では、将来利息をつけることはあり得ない話なのである。消費者金融が貸金訴訟を提起してくる場合でも、和解日までの利息、損害金ならともかく、将来利息付での和解は裁判所もなかなか認めない。それを武富士は押し通そうとしている。

そのうち武富士は白旗を上げてくるのか

 多くの事務所は、武富士の将来利息付加の要求を拒絶している。そのため、武富士とは残有についての和解が全く進んでいない。過払で攻めたてられ、残有で兵糧攻めにされた、武富士がそのうち白旗をかかげて来るだろうと予測しているのだ。
 しかし果たしてそうだろうか。というのも、うちの事務所では武富士に特定調停を申し立てているが、頑強に抵抗してくるからだ。「弁護士がついているんだから特定債務とは言えない」などという、奇説を唱えて特定調停自体を拒絶する。さらには「受任後6カ月立っているから、その間毎月の返済額3万円の6カ月分18万円が積み立てで来ている筈だからそれを頭金で入れろ」「18%の将来利息をつけない和解には一切応じていない」と延々と述べ、普通1時間で終わる特定調停が3時間、4時間かかるのである。武富士が「17条決定が出てもうちは異議を出す」と言うため、押しの弱い調停委員は「17条決定を出しても異議が出ると言い張っているので、取下げてはどうでしょうか」などと言ってくる。「相手から異議を出すと言われて、取下げるなら、みんな債権者は異議を出すしてきますよ。裁判所が毅然として17条決定を出すのでなければ、特定調停という制度を作った意味がないでしょう」「調停委員の意見ではなく、裁判官の意見が聞きたい」と押して、ようやく17条決定を得る。しかしその決定に対して武富士は異議を出してくるのだ。
 武富士のB/Sを見てほしい。6485億円の貸付残高に対して3085億円も利息返還引当金を積んでいる。積立比率48%は業界最高水準である。1年以内に支払わなければならない債務=流動債務は1241億円、社債は1315億円であり、財務状況は極めて良い。武富士は「キャッシュフロー」が厳しいと言って、死んだふりをし、流動負債を払い終わった頃に反転攻勢をかけてくるかもしない。

武富士に対する処方箋

 武富士に対する処方箋の一つが、過払顧客から残有顧客に過払金債権を譲渡し、譲渡を受けた顧客が過払金債権を相殺してしまう方法だ。うちの事務所ではかつて貸金訴訟を提起された案件でこの方法をとったことがある。相手業者は、そのような債権譲渡は顧客同士の利益相反になり、弁護士法違反だから、相殺も無効となると主張してきた。しかし、この業者の主張は平成21年8月12日付最高裁判決によって否定された。同判決は「債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が,その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は,他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗に反するような事情があれば格別,仮にこれが弁護士法28条に違反するものであったとしても,直ちにその私法上の効力が否定されるものではない。」と判示したのである。