3月3日最高裁第3小法廷判決 契約が終了しない限り時効は進行しない

リボルビング払いとは

 多くのサラ金では、客にカードが渡され、設定された限度額の範囲内で、自由に借入ができ、毎月決まった日にそのときの借入残高に応じた一定額を返済することとなっている。これがリボルビング払い方式というものだ。この場合、借りる側としては、毎月一定額を払えばいいため、つい安易に借入を増やしてしまい易い。そうして、限度額近い残高で貸し借りを繰り返し、なかなか完済できず、結局弁護士のところにかけ込んでくることが多い。

本日平成21年3月3日付最高裁第3小法廷判決 取引終了するまで時効の開始を認めず

 こうした契約がある状態で、昭和54年1月18日から平成18年10月3日まで27年間、プロミスから借入と返済を繰り返してきた人が、プロミスを相手に27年間の取引で発生した過払い金約630万円の支払いを求めて起こした訴訟があった。
 この事件の第2審判決である、名古屋高裁平成15年12月27日判決は「過払金返還請求権は,個々の弁済により過払金が生じる都度発生し,かつ,発生と同時に行使することができるから,その消滅時効は,個々の弁済の時点から進行するというべきである。」として、27年間の取引のうち過去ほぼ10年分の取引から発生する過払い金しか認めなかったのである。
 しかし、本日13時30分、最高裁判所第3小法廷は、27年間の取引期間全部について、そこから発生する過払い金の全額を支払うよう、プロミスに命ずる判決を言い渡した。平成21年1月22日付最高裁第1小法廷判決と、同じ結論だ。

判決の事案

 判決の事案は以下の内容だ

  1. 昭和57年1月18日以前から控訴人(原告)と被控訴人(プロミス)とは、基本契約に基づく継続的金銭消費貸借取引が継続していた。その基本契約には、自動更新条項が含まれていた。
  2. 控訴人(原告)は、プロミスから貸与されたカードをほぼ全ての期間を通じて使用して継続的金銭消費貸借取引を継続していた。
  3. 昭和57年1月18日以前からの取引は平成7年12月10日に一旦完済し取引が一旦停止した。
  4. 第一取引により一旦完済した取引が約3年3ヶ月後の平成11年3月26日に再開した。その第一取引にかかる過払い金が、平成11年3月26日に再開した第二取引にかかる貸付金に充当できる。と判断した。
  5. 第二取引開始にあたり第一取引と異なる会員番号が付されていた。
  6. 第2取引開始にあたりプロミスの与信調査は、本人確認資料の提示のみに終わり、収入資料の提出などは、求められなかった。与信調査は緩やかであった。
  7. 第一取引と第二取引において当事者間に、1.自動更新条項の存在2.カードの継続的使用3.プロミスからの貸付の勧誘4.与信調査の状況などから、特段の事情がない限りは当事者間に充当の合意が存在すると判断した。
  8. 残高無視計算(当初0円計算)の計算方法については、控訴人(原告)は、被控訴人(プロミス)から提示された取引履歴に基づいて過払い金の算定を行えばよく、当初残高の立証責任は被控訴人(プロミス)にあるとして残高無視計算(当初0円計算)を認める判断をした。(名古屋高裁の判断であり、今回の最高裁の判断ではない)

第2審は、消滅時効の起算日を個別進行説を採用し、訴訟提起から10年以前の過払い金の時効消滅を認めた。(この点が今回の平成21年3月3日判決の最大の争点となった)
以上は「冬は必ず春となる勇気でGO」より
http://blogs.yahoo.co.jp/yuuki_go_2005/57114010.html

第三小法廷の判決の理由

 09年3月3日付最高裁第三小法廷判決をいささか意訳すれば、次の通りとなる。

  1. リボルビング払いの場合、毎月の支払は当時ある借入全体に対してなされるものだから、かかる合意は「過払い金が発生した後に新たな借入があれば、その借入金の支払いに充てられる」という合意(これを判決は過払金充当合意と呼んでいる)を当然に含んでいる。
  2. だとすれば、いったん過払い金が発生しても、取引が継続している限りは、その後新たな借入金の発生が予想され、その時点で過払い金返還請求することはない。
  3. かかる過払金充当合意が存在する限り=取引が継続している限り=また借りるかもしれないと思ってカードを持ち続けている限り、時効は進行しない。※判決は「過払金充当合意は法律上の障害としえ過払い金請求健の行使を妨げる」とする。

以下判決の理由部分をそのまま引用する。
 本件取引における弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものであり,本件基本契約は,過払金が発生した場合にはこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった。
(略)
 前記のような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り,過払金は同債務に充当されることになるのであって,借主が過払金返還請求権を行使することは通常想定されていないものというべきである。したがって,一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。

 第三小法廷判決は上記のように述べた後、平成21年1月22日付最高裁第1小法廷判決を引用している。
※ http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090303140752.pdf

取引に中断ある場合、一連計算か連続計算か

 一個の基本契約のもとなされた取引において中断(利用しない時期)がある場合、取引が終了しない限り全期間を通じて一連で計算するか、中断があればそれぞれ別個の取引すべきか、という争いがある。09年1月22日付第1小法廷判決は1226日もブランクがありながら、一連で計算すべきとし、時効の開始を認めなかった。3月3日の第3小法廷判決は、この点に触れていないがが明らかでない。最高裁判決の場合、法的思考の過程は示されるが、紛争の内容について触れられないため、いかなる事案なのか不明なのだが、おそらく27年間完済することなく取引が継続されていたのではないか。
 ただ、3月3日付第三小法廷判決は、1月22日付第一小法廷判決を引用しているので、基本的には同じ考え方に立っている。

3月6日に第2小法廷判決

 09年3月6日に最高裁判所第二小法廷が、最後の10年間に限り過払い金返金を認めた広島高裁松江支部判決に対する上告審判決を言い渡す。
※ 過払い金/最高裁判決/ブランク1226日でも時効認めず↓
  http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090122/1232615649
※ 過払い金 一連か個別か 1月22日最高裁判決について(続)
  http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090124/1232817505
(最終訂正09.3.4)