被害者参加制度 初の運用

被害者参加制度

 被害者や遺族が裁判に出廷して、被告人に質問したり、求刑や量刑について意見を述べたりできる「被害者参加制度」が運用される公判が23日、東京地裁で2件開かれた。
 07年6月成立した「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が、08年12月以降起訴された事件以降実施されることになっているが、これが初の実施例ということになる。

今回の裁判はこんな例

 被害者参加制度は全ての刑事事件に適用があるわけではない。殺人、傷害罪などのように故意により人を死傷させた罪、業務上過失致死傷(交通事故による死傷事件)などの罪に限られる。また、希望すれば必ず参加できるものではなく、裁判所の許可が必要だ。運用としては、こういうことを質問しないならという条件付で許可されることもあるだろう。
1件は傷害罪などに問われた飲食店従業員の男の公判。男は昨年10月、東京都新宿区の路上で通行人男性に、「肩が触れた」などと言いがかりをつけて暴行され、重傷を負った例だ。被害者の男性が、被告人に「厳しい刑を願いますが、恨みますか」と質問すると、被告は「恨みません」と応えたという。
 もう1件は、自動車運転過失致死罪に問われた運転手の男の公判。昨年8月、東京都千代田区でトラックを運転していた男が、安全確認を十分にせず右折した際、直進してきたバイクの男性と衝突し、男性を死なせた事案だ。遺族が、自分からすれば殺人に近いと意見を述べ、実刑を強く望むと、意見を述べた。

被害者参加制度の意味

 被害者参加制度の一番の意味は、被害者の感情の浄化作用だ思う。今まで、被害者はこれまでも裁判で意見を述べることはできたが、検察官からの質問に答えてという形に限られていた。また被告人に直接質問する機会はなかった。このため、何で検察官は被告人にこのことを聞いてくれなかったか、この意見を言ってくれなかったか、という悶々とした感情を残したまま、裁判が終わってしまうこともあった。そうした場合、被害者ないし遺族としては、気持の整理がつかないまま、その後の人生を送っていくことになる。被害者、遺族に、気持の整理をつけたもらう。そういったことのためにこの制度は有る。

今回は混乱なく終わる

 新聞報道を見る限り、今回は混乱なく、終わったようだ。しかし、今年の5月から裁判員制度が始まる。そうなれば、今まで、裁判官、検察官、弁護士だけの3者(法曹三者という)だけで行われていた裁判に、被害者と裁判員という2者が加わる。そしてこの2者とも被告人に対する質問権を持っている。
 法曹三者で行われていたときは、予定調和的に終わったものが、新たに二者が加わってくるとそうは行かない。法律家の中でもこの制度を実施した場合、裁判が紛糾することにならないか、混乱は生じないか、そうしたことに全く予想がつかない。だから、被害者参加制度は、3年後に制度を検証、見直しをすることになっている。
 今後の実例を、裁判所も被害者のプライバシーを守ることを前提に積極的に公開し、議論を広く行い、意義ある制度に育てたい。
※08年11月16日付ブログに制度の内容を書いています。
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20081116/1226848952