オバマ 中絶支援団体への援助再開

ES細胞を使って脊髄損傷の患者を治療

 米国のバイオ企業が、人体のどんな細胞にも成長する胚性幹細胞(ES細胞)を、脊髄損傷で下半身不随となった患者に移植して治療する世界初の臨床試験を夏にも実施すると発表した。米食品医薬品局(FDA)の許可も得たとしている。これもオバマ効果と言えよう。政権が中絶反対派のブッシュから、中絶肯定派のオバマに変わったことで(http://www.jiji.com/jc/zc?k=200811/2008111000091)、この企業も満を持してこの発表を行ったのだろう。今回の米大統領選挙は、キリスト教右派の敗北が明らかになった選挙でもあった。

ES治療を眼の敵にしていた米キリスト教右派

 ES細胞治療は、アルツハイマー、脊髄損傷には唯一の治療法であるが、ヒトの受精卵を使うため、キリスト教右派から猛反発を受けていた。彼らは中絶反対を強力に唱えており、ES細胞治療は彼らにとってみれば、中絶と同じくらいに罪深いことと理解されていた。彼らは90年代に政治圧力団体として大きく成長し、ブッシュ政権誕生の第一の功労者でもあった。そのためブッシュは、彼らのご機嫌をとるためにも、生命倫理上問題があるとして、ES細胞研究促進法案に拒否権を行使し、ES細胞研究に対し、敵対的立場をとってきた。

メチャクチャな米キリスト教右派

米国でもキリスト教主流派は、聖書の天地創造などを歴史的事実としては受け入れることはせず,そこに描かれた倫理観を重視し,近代科学と折り合いをつけてきた。しかし、フリーセックスがはやり、中絶を認める法律が制定されたりしたことに危機感を持ち、近代科学主義を否定してまで聖書の教えを絶対的なものとして信じようという保守派が力を持ち始めた。
彼らの活動の初期には,彼らの活動の影響を受けた反中絶団体が数多くでき、妊娠中絶手術を行うクリニックを多数の活動家で包囲して,患者を入院させない運動が始まり,次第に中絶医師の殺人事件やクリニックの爆破事件へと過激化していった。中絶支持派によると、93年から98年の間に7人の医師らが殺害され,01年までに41件の爆破事件が起こった。さすがにこうした過激な活動は社会の批判を浴び、沈静したが、彼らのロビー活動により、中絶を制限する法律もできた。
彼らは教育委員会や地方政府に、学校で「進化論だけでなく、天地創造説も教えろ。」とか、「進化論は一つの仮説だとの注記をつけろ」との要求を始めた。彼らの考えた科学が「創造科学」と呼ばれるものだ。これによると、地球は6000年前に作られたことになっている。植物化石についても、当時の植物の葉の化石がしおれておらず、元気な状態で化石したのは、ノアの大洪水のときに比較的短時間に高圧下に密封されたからだと主張する者がいる。また化石が地層の下から上に行くほど下等な生物から高等な生物に変わっていくことも、大洪水時に知能があり移動能力のある生物ほど水を避けて上の方に避難してゆくことが出来たためだ、という考えを言う者もいるのだからびっくりする。
こうした運動が活発だった90年代は、こうした宗教原理主義者たちが、伝統的なプロテスタント団体を乗っ取っていたが、最近は穏健派によって、こうしたグループが追い出されるようになっている。このため、共和党も次第にキリスト教右派と距離を置くようになった。マケインがペイリンを副大統領にしたのは、選挙の土壇場になって情勢不利と見て、急遽キリスト教右派の支持を得ようとしてのことで、最後の悪あがきとも言える。
キリスト教右派原理主義者、宗教右派ともいう)の発展と衰退については、飯山雅史の「米国における宗教右派運動の変容─2008年米国大統領選挙と福音派の新たな潮流─」という論文が非常にためになる。
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ir/college/bulletin/Vol.20-3/20_3_07%20Iiyama.pdf
クルーグマンの「格差は作られた」には、共和党宗教右派から手をひきつつあることが書かれている。

オバマついに中絶支持に向け始動

ブッシュは連邦政府から助成を受けるNGOに、海外で家族計画の手段としての妊娠中絶や促進を禁じる規制をした。女性への助言や情報提供、海外政府へのロビーなど中絶をめぐる幅広い活動が制限された。しかしオバマが09年1月23日、この規制を撤廃する大統領令に署名した。「過去8年間、途上国での安全で効果的な家族計画の促進努力が損なわれてきた」と指摘。「政治問題化に終止符を打つときがきた。今後家族計画について新たな話し合いを始める」と撤廃の理由を述べた、という。
※ 詳しくは↓
http://sankei.jp.msn.com/world/america/090124/amr0901241908023-n1.htm
1月20日のブログで「さらばブッシュ さらばネオコン」と書いたが、さらに「さらばブッシュ、さらばキリスト教右派」と言えるようになった(祝)。
※ http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090120/1232460366

過払い金 一連か個別か 1月22日最高裁判決について(続)

一連か個別か 過払い金訴訟で残された最大の論点

 09年1月22日の最高裁判決の衝撃が冷めやらぬ今日この頃。この判決の原点である、過払い金訴訟における現在最大の論点である、一連計算か個別計算かの議論について論じたい。この最高裁判決がこの最大の論点に決着をつける大きな契機になるかもしれないからだ。

1月22日最高裁判決をもう一度振り返る

 ただその前に1月22日最高裁判決を、今ここで整理してみよう。
これは、ある男性が東日本信販に対して起こした過払い金請求訴訟についての判決だ。この男性は、東日本信販との契約で、82年8月10日から05年3月2日までの約23年間、借入限度額の範囲内で借入と返済を繰り返し、返済はリボ払い方式で行っていた。この男性は23年間ずっと借入を続けてきたわけではなく、借入をしていない期間が4回もあり、それも1226日間、232日間、758日間、156日間とかなり長い期間にわたっていた。一度完済してから再度借入をするまでに、1226日間、758日間というような長いブランクがあって、完済後10年たっていると、これまでの判決例では、時効だから完済前にあった過払い金は請求できないとされることが多かった。しかしこの最高裁判決は、こういった長いブランクがあるにも関わらず、23年間に生じた過払い金の全額の返還を東日本信販に命じたのである。
 下級審判決の中には、契約書の書き換えがないにもかかわらず長期間のブランクがあった場合、安易に分断を認めるようなものが散見されたが、1月22日付最高裁判決は、契約書の書換がない限り、いかに長期のブランクがあろうが一連計算するようと、言ってくれているのである

一連と個別は時効の成否に大きな影響

 金銭貸借取引中、完済があるとき、完済前の取引(以下「第一取引」という)と完済後の取引(以下「第二取引」という)とを、一連の取引ととらえるのか、個別の取引ととらえるのかが、この議論である。この議論は過払い金額の多寡にも影響を与えるが(一連計算の方が過払い金額は高くなる)、時効の成否にも大きな影響を及ぼす。
 個別取引ととらえた場合、第一取引終了時から10年以内に訴訟を起こさないと、第一取引から生じた過払いは時効になって消えてしまう。しかし一連取引だととらえれば、一連の取引が続く限り時効は成立しないのである。

最高裁には3つの小法廷がある

ところで最高裁には15人の裁判官がいて、5人ずつ三つの部に分けられている。特殊な言い方だが、この「部」を最高裁では「小法廷」と呼んでいる。
 各小法廷とも、共通見解がある。それは「一度完済し、過払い金が発生した場合、その過払い金をその後再開した借入債務に充当する意思があれば一連計算し、なければ個別に計算する」という見解である。
 基本契約が継続する限り、一度完済してもその後の借入金の支払いに充当されるとの合意がある。しかし契約が書換えられて新しい基本契約になってしまうと、書換前の基本契約に基づく充当の合意は、書換後の基本契約には及ばないため、原則、個別計算になってしまうのである(但し次項のとおり例外もある)。

平成20年1月18日付最高裁第二小法廷判決

 もう一つ重要な最高裁判決がある。第一取引と第二取引とが別個の基本契約に基づくものであり、第一取引により生じた借入金債務の支払に充てる合意が存在するなど特段の事情がない限り,第一取引から生じた過払金は,第二取引による借入金債務には充当されないとし、特段の事情ありと考えるかどうかは次の点を考慮して判断する。平成20年1月18日付判決はこの考え方を述べブランクが約3年間あったこと,利息と遅延損害金の利率が異なっていることなどからすると,特段の事情は認められないとした。

  • 第一取引の期間、その後新たな借り入れをするまでの期間
  • 第一取引終了時、契約書の返還や、カードが無効になったか。
  • 第一取引弁済後、借入再開にいたるまでの貸主と借主との接触の状況(業者の方が勧誘して再度の取引となったか)
  • 両取引における利率等の契約条件の違い

今後も続く最高裁判決

 3月3日には第二小法廷が、3月6日には第三小法廷が、同様の論点について判決を言い渡す。もし異なった見解に立って判決するとなると、最高裁判例に混乱を生じるために、大法廷(最高裁判事15人全員が合議して決める裁判)での決着がつくことになるかもしれない。
 もし1月22日付判決の考えが今後の最高裁判例となるのであれば、カードを作って借入限度額内で貸し借りを続けていた場合、そのカードが有効な限り、どれだけブランクがあっても一連の計算と解される可能性がある。また完済後も、契約が残っており、カードを使って借りようと思えば借りることができた状態あれば時効は進行しないということになり、完済後10年経ってもまだ時効にかかっていないということもありうるのだろうか。こうした基本契約は自動更新条項がついているため、更新、更新で、いつまで経っても時効が完成しないということもありうる。10年以上前に完済した人で試しに使ってみてそれで1万円でも借りられたということになると、そのことでカードは有効だから時効にかかっていないと主張できるのであろうか。

※平成21年1月22日第一小法廷判決
 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090122140649.pdf
※平成19年6月7日第一小法廷判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070607111814.pdf
※平成20年1月18日付第二小法廷判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080815100408.pdf
※ 一連取引か個別取引かの議論については、まだ議論が未成熟です。当然1月22日付第一小法廷判決についても評価が定まっていません。ここに掲げた見解はあくまで試論と理解してください。
※ 判決直後の論評については↓
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090122/1232615649

欧州景気の牽引役スペイン 失業率13.91% 

スペイン失業率13.91%

 スペイン統計局が発表した2008年第4・四半期の同国失業率は13.91%と、予想を大幅に上回り、9年ぶりの高水準に達した。また、欧州連合(EU)平均失業率のほぼ2倍となった。特に建設分野での失業が目立っている(スペイン放送局TVEより)。

スペインは欧州のセメントの半分を消費していた

 去年の10月7日のブログで、英国、スペイン、中国が経済危機に陥るのでは書いた。英国では09年1月21日付ブログで書いたように金融・不動産業の業績が悪化し英ポンドの通貨危機さえささやかれているし、中国では09年1月22日付ブログで書いたように中国政府が絶対達成するとしていた第4四半期GDP成長率マイナス6.8%と、8%を大きく下回ってしまった。そしてついにスペインである。
 http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20081007/1223357735
 以下、10月7日付ブログから、スペインについて書いた部分を抜粋する(デスマス調とデアル調が混ざっているが原文ママ)。
 05年、スペインは年間80万軒もの住宅を建築しているが、これはドイツ、フランス、イギリスのそれの合計を超えている。これは実需というより、不動産投機であり、その結果1400万戸の住居のうち300万戸が空き家となっている。
 こうした不動産投機の結果、住宅価格は2001年から2004年の間に、89%も上がった(その間給料は14%しか上がっていない)。ちなみに住宅価格は1998年から2005年の間に150%上がっている。
 同国の銀行の貸出債権の半分以上が不動産関連、欧州のセメントの半分以上がスペインで使われていると言われています。
 個人の負債も欧州の他の国が8%しか増えていないのに、スペインでは25%も増えている。
 08年になって、スペインの不動産バブルも崩壊、同国経済は昨年までの4%近い成長からほぼゼロ成長に減速。スペイン政府は8月14日、臨時閣議を開き、特別融資枠の設定や税還付、公共工事の増加を柱とする総額6兆円強の景気対策を決めました。
**スペイン経済が破たんした場合次に何が来る
 スペイン経済は外資導入で建設ラッシュが進んでおり、不動産ローンの焦げ付き、スペインの銀行に融資していた外資の損失、といった形に危機が広がっていくのは当然だが、さらにルーマニアに飛び火するのではないか。ルーマニア語スペイン語は、同じラテン語系の言語のため言葉がかなり近い。そのため、ルーマニアからスペインに労働者が大挙して押し寄せ、その仕送りがルーマニアの景気を支えてきた。おそらく、建設労働に従事することが多かったのではないか。となるとルーマニア景気も低下しないだろうか。ルーマニアはまだユーロを導入できていないが、通貨危機は大丈夫だろうか。
また、去年のテレビで見たが、ルーマニアでもマンションが億単位で売られており、それを融資しているのはルーマニアの銀行だそうだが、ルーマニアの銀行に融資しているのは米国の銀行だという。
※中国の不況について
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090122/1232612157
※英国の不況について
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090121/1232534227