法人税収はGDPのわずか1%

昨年度の法人税収はGDPのわずか1%

 消費税の議論に隠れがちな、法人税率引き下げ論について一言述べたい。
 この問題を考えるときに、法人税所得税、消費税収の推移を示した次のグラフをみることから始めるべきである。平成2年→平成19年→平成21年と各税収は次のように変わっている。http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/011.htm
所得税 26.0兆円→16.1兆円→12.8兆円
法人税 18.4兆円→14.7兆円→ 5.2兆円
消費税  4.6兆円→10.3兆円→ 9.4兆円

なんでこんな法人税収が低いのか

 マスコミ、日経なんかは特に熱心に、法人税が高すぎると書き立てている。成長戦略をお題目として掲げる日経としては法人税率引下はマストということになる。しかし21年には法人税はたったの5兆円、約500兆円弱の国内GDPからして、たったの1%しか納められていないことに注目すべきである。法人税収が平成19年から平成21年に3分の1にまで急減している理由は、繰越欠損金制度にある。これは大赤字を作った場合、その後7年間にわたって損失を持ちこせる、その間赤字が穴埋めできるまで税金を払わなくて良い、という制度だ。リーマンショック後、リストラをした企業は、リストラ費用を損失に計上、今後長期間法人税を払わなくて済むことになる。当分法人税制は低調な状況が続くだろう。
 さらに、租税特別措置法の存在が法人税収を下げている。産業振興、救済等様々な名目で、特定業種に対する恩恵として、軽減税率、減税措置が特別措置として定められてきた。こうした措置が一度できてしまうと既得権化し、廃止が難しい。このため、こうした特別措置が増える一方となっている。こうした減税措置をゼロベースで見直さなければならないのだが、平成22年度税制改正では、産業界などの反発で、租特の廃止・縮減はわずか1千億円程度の規模にとどまっている。

法人税率引下げを言う連中

企業経営者が法人税率引下を支持するのは、自分たちにとって利益になるのだから当然である。「企業の成長のためには、給与を大幅カットすべきだ」なんて叫ぶサラリーマンがいるだろうか。それと同じである。どの経営者も「法人税率を引き下げないと、産業が空洞化する。」「法人税率を下げないと企業が外国に逃避する」などと、もっともらしく言っているが、本音は法人税率が下がれば、儲かるからだ。法人税率が40%から30%に下がれば、30万円の給与が35万円の給与にアップするのだから、賛成しないはずがない。
いわゆるエコノミストなどという連中が、同じことを言っているが信用してはいけない。ああいった連中は、企業がもうかって株価が上がって、株主配当が増えれば、儲かるから、法人税に反対する訳がないのである。

各国の法人税

 各国の法人税率は次の通りだ。日本30%、米国35%、英28%、独15%、仏33.5%、伊27.5%。日本の法人税率はそんなに高くは無い。実は法人税率はここ20年間でかなり下げられてきている。
 昭和62年に43.3%から42%に、その後も平成元年に40%、2年に37.5%、10年に34.5%、11年に現行の30%にと、ずっと下げ続けられている。

法人税率を下げなければ企業が海外に脱出するということがあるのか

 中にはそういう企業もあるだろう。しかしそれは一部だ。米国は欧州に比べて法人税率が高いのはなぜか。それは逆に言うと、欧州が米国に比べて法人税率が低いのはなぜかという問いにもなる。それはEUという経済圏が、国境の意義を希薄化しているからだ。もし東京都の法人税率が高く、千葉県の法人税率が安ければ、多くの会社がこぞって本社を千葉県に移すだろう。しかし日本からシンガポールにそうそう本社を移せるものではない。今日の日経で、TDK沢部肇会長が選挙結果についてインタビューを受けて「経営者として言えば、法人税が安いに越したことは無いが、高いから国を出て行くという選択肢は頭にはな(い)」と答えている。

不況期の税制の在り方

 不況期の税制の在り方は何か。要は金を貯めこんだところに狙いをつけ、その金が、個人なら消費、雇用なら投資や人件費に回るようにすることだろう。そうやってみんながお金を使えばデフレも解消し、GDPも増え、自然税収は上がってくる。では、今国内でだれが金をため込んでいるのか。それは企業である。日本では、1980年から2000年まで、企業よりも家計が国内貯蓄の大きな部分を占めてきた。しかし、2000年以降、家計の占める比率は大きく低下し、金融機関と非金融法人企業が比率を伸ばしている。国内貯蓄のシェアにおいて、企業と家計の逆転が生じた背景には、企業が業績回復過程で得た利益を賃金として分配せず、内部留保として蓄積していることが挙げられる。銀行などがそうだし、ソニーだ、トヨタだといった企業も同様だ。法人税を払いたくなければ積極的に人を雇い、設備投資をすればいい。当然賢い使い方をするべきだが、この場合法人税率減税が役に立つか。立たないであろう。
http://www.pref.kanagawa.jp/kenzei/kaikaku/working-houkoku0706-9.pdf