金融庁のFX業者一斉調査結果発表

従来は相対取引が中心

 FX業者、固い表現をすれば外国為替証拠金取引業者は、これまで相対取引が中心だった。ここが証券会社と違うところだ。証券会社だと、お客は証券会社に売買を注文すると、証券会社は注文を証券取引所に取り次ぐ。株の売買は全て証券取引所で行われるため、価格決定の透明度は極めて高い。ところがFXの場合は、客はFX業者からドルを買い、FX業者にドルを売ることで、売買をするため、取引所は通さない。こういった取引を相対取引、店頭取引、OTC(Over the counter)という。FXも取引所がない訳ではない、たとえば、東京金融取引所で「くりっく365」という名前でFX取引が行われている。

金融庁の一斉調査

相対取引では、顧客が利益を得るときはFX業者が損をするし、顧客が損をするときはFX業者が得をする。具体的にはこうだ。業者が顧客から1ドル100円で1万米ドル買い注文を受けたとする。さて、1ドルが110円になった時点で顧客がこのポジションを解消すると、業者はこの投資家に対して差額の10万円を支払わなければならない。この場合顧客は得をするが、FX業者は損をする。
FX業者がこうしたリスクを避けるために行うのがカバー取引だ。FX業者は上記のように顧客からドル買い注文を受けると、大手銀行に対して、顧客と同じ注文、1ドル100円で1万米ドル買いをする。そうすれば、1ドル110円で顧客がポジションを解消して、顧客との相対取引で10万円損をしても、カバー取引で10万円得をするため、リスクが0になる。
 金融庁は、4月16日、FX業者に対するリスク管理の状況等に関する一斉調査の結果の概要を公表した。

  • カバー率が低い場合、相場の急変などのリスクを業者が負うことになり、結果的に業者に損失が発生することがある。調査結果では、業者の73%がフルカバー、残りが一部カバーだった。一部カバーの業者の4分の1はカバー率30%だった。
  • 顧客との取引とカバー取引との間に時間差があったり、カバー取引を業者が自ら判断して行ったりすると、業者もリスクを負うことになるが、時間差を設けている業者が16%、自己判断でカバー取引を行うという業者が13%いた。
  • カバー取引を自動的に執行する業者が80%、自己判断で執行する業者が20%いた。

 カバー取引を一部しか行わなかったり、行うにしても業者の判断により時間をずらすことがあれば、顧客との利益相反が生じる。金融庁は全体の数字しか発表しておらず、それぞれの業者がカバー取引をどう行っているかまでは発表していない。金融庁のHPには「なお、お取引先業者に関する下記事項の事実関係については、お取引先に直接お問合せ下さい。(金融庁からは、個社の業務の具体的状況についてお教えすることはできません。)」と記されている。

自己取引をしている業者もあり

 先の金融庁の一斉調査で、自己勘定取引を行っている業者が16%もあることが分かった。自己勘定取引で当たれば大きいが、外れれば大損になる。顧客の預かり金を全額信託保全していればともかく、そうでなければ顧客の預かり金を食いつぶすことになりかねない。

東洋経済、ネオFX業者に疑問を提示

08年10月17日付東洋経済の特集「為替入門」では、こういったカバー取引のずれを利用して、FX業者が不当な利益を得ているのでは、との疑念を投げかけている。同誌によれば、「1日に1回のカバー取引しかしない」業者もいるとか。こんなものはカバー取引とは言えない。自己勘定取引と変わらないのではないか。業者の中には、作為的にレートを捜査しているのでは、との疑問を呈している。そうして行われるのがストップ狩り。レートが一瞬だけ大きく動き、なるはずのないロスカット(損失拡大を防ぐために一定レートになったら強制解約になる仕組)になってしまう、というものだ。同誌記者がこうしたストップ狩りが疑われる業者にインタビューすると「故意のレート操作はしていない。ただ、不自然なレートが出てしまっているのも事実。今システム会社にロジックの見直しなどを依頼している。指標発表時にはカバー先の提示レートだけではなく、いろいろなレートを参照するようロジックを組んでいる」というので、記者が「いろいろなレートとは何か」と聞くと「公表できない」というのが業者の答えだったという。